2012韓国文学読書感想文コンテスト審査結果
2012韓国文学読書感想文コンテスト

韓国文学翻訳院 東京フォーラムの開催に先立ち、「2012韓国文学読書感想文コンテスト」(主催:駐日韓国文化院 世宗学堂、共催:韓国文学翻訳院)の授賞式が16日18:00~からハンマダンホールで行なわれました。申京淑(シン・ギョンスク)作家の『母をお願い』(集英社刊)と、金重赫(キム・ジュンヒョク)作家の『楽器たちの図書館』(CUON刊)を課題図書にして感想文が寄せらせ、審査の結果、以下の方々が授賞されました。今回の授賞式のためにわざわざソウルや熊本など遠方からお越し下さった方もおられました。

表彰式では、渡辺直紀(武蔵大学教授)審査委員長よりの総評の後、授賞者に賞状と副賞が授与されましたが、課題図書の作家である申京淑さん、金重赫さんもプレゼンターとなり、授賞者も大喜びされ、記念撮影も行なわれました。

○課題図書
『母をお願い』  申京淑(シン・ギョンスク)著 (集英社刊)
『楽器たちの図書館』 キム・ジュンヒョク著 (CUON刊)


-最優秀賞 1名  吉良佳奈江さん。
-優秀賞  2名  鈴木健太郎さん、鈴木英雄さん。
-佳 作  2名  高木香奈枝さんと今坂桂子さん。   

【総 評】

 みなさんの力のこもった感想文、とても楽しく読ませて頂きました。今回、課題図書になった2つの小説は、一方が長篇でもう一方が短篇集という違いもありますが、読み進めるにあたって、非常に慎重を要するものと、軽快に読んでいけるものという違いもあり、とても対照的な作品でしたので、両方を読んだ方は、どちらの作品で感想文を書くか、とても迷われたと思います。ですが、いずれにせよ、審査する基準としては、作品との距離をきちんと取って(離れすぎもせず、くっつきすぎもせず)、それぞれの作品の特徴がどのような理由から来るものか、その原因の一端を明らかにし、まだこの作品を読んでいない人に、読んでみたいと思わせるようなものに、高い評価を与えることとなりました。
 シン・ギョンスクさんの長篇『母をお願い』は、母親の失踪を契機に、家族それぞれの視点で、その母(オンマ)のことを回想させながら、現代社会における母性の位相を描いた作品で、韓国のみならず、アメリカや日本を含めた諸外国にも多く翻訳・紹介され、話題を集めた作品です。今回のコンテストでも、非常に多くの方々が、課題図書としてこの作品を選び、自分の母親のことや、また自身が母親になってあらためて考えたこと、また自らがもう母親になれない(子供を産めない)体になったことなど、さまざまな体験を反省的かつ回顧的に書いていらっしゃいました。感動し、涙し、心打たれた、とおっしゃっている人も多数いましたし、高齢の方からの応募も結構ありました。また、作品を読んで、ソウルの街をあらためて歩いてみたという方も何人かいらっしゃいました。作家の立場からすれば、このように多様な反応を数多く引き出したということで、小説執筆の目的の多くは達成されたかもしれません。ただ一方で、作品のことには簡単に触れるだけで、自分の体験ばかりを語ったり、作品や作者に対して何も応答していない感想文もずいぶんありました。それは、この作品がそれだけ読者を興奮させ、いろいろなことを考えさせたという、作品の優秀さを逆に証明していることでもありますが、いかんせん、作品評、感想文としては、きびしい点数をつけざるを得ませんでした。審査委員としては、一種、原作者と読者を敵に回すような、難しい選択ではありました。
 また、この作品では、家族それぞれの視点を確保するために、韓国語では「너」とか「당신」――これを日本語訳では「あなた」と「あんた」という風に訳し分けていますが――という二人称の主語を立てました。これは韓国でも、あるいは英語訳(Please Look After Mom、アメリカ)でも問題が指摘されたようですが、日本語訳でも同様の問題、つまり、小説の文法を破壊することによって生じる読みにくさという問題が指摘できます。この作品の韓国語版の解説で評論家のチョン・ホンスさんは、この二人称のことについて精緻に分析したあと、そのまとめの一文として「私たちが結局、この小説で読み、耐えなければならないのは、「おまえ」である」(우리가 결국 이 소설에서 읽고 견뎌내야 하는 것은 ‘너’다.)と、とてもうまく、いろいろな意味を持たせておっしゃっています。通常、手紙を書くときにしか使わない、この二人称を、小説の地の文に使うことによって、作家はどのような効果を狙い、それはどう結果しているのか――そのことに多少なりとも答えてくれた感想文に対しても、いい評価が与えられました。
 キム・ジュンヒョクさんの短篇集『楽器たちの図書館』は、これまでの韓国の小説にはあまり登場してこなかった類の人物たちの日常生活がユーモラスに描かれており、たしかに、韓国でも日本でも、また他の外国でも、このような生活を送っている若者はたくさんいるだろうなと思わせる短篇群です。でも、それだけではなく、現代社会では敬遠され疎外されがちな、いくぶんパラノイア(偏執症)的なそのような人間たちに対して、救いの手を差し伸べ、実は、彼らを敬遠し、疎外している方がおかしいのかもしれないと思わせるような作品群でもあります。それぞれの短篇では、ピアノ、(地球プレーヤーの)マニュアル、レコード、楽器、CD、帳簿など、主として音楽と関連した「モノ」が、さまざまな人間関係を媒介しますが、それと同時に、これらの「モノ」は、人間関係の調和と違和をつかさどる、大切な装置として、それぞれの作品で機能しています。
また、この短篇集の最後に収録されている「拍子っぱずれのD」(엇박자D)には、22名の音痴の歌を機械で「ミキシング」し、合唱させるようにして、見事に調和した歌にする、つまり、不和の総和を調和に至らしめて共鳴させるという、離れ技をやってのける男を描きます。もともと音痴は合唱できません。自分の発声やリズムを周りに合わせられないからです。しかし、その「周囲に合わせる」ということが音楽のハーモニーの本質においてどういうことかということを、この作品は逆に告発します。このような物語は映画では作れないでしょう。かといって、小説に独自の領域かというと、そうでもないような気がします。この作品集の韓国語版解説で、評論家のシン・スジョンさんは、「キム・ジュンヒョクの「遊戯する少年たち」は、言語に依存しない。彼らは世の中の言語を「ねじって」傷つけるという方式を通して、「言葉」よりも「長い長い対話」をかわす。彼らは「ねじられた言語」で、言語が盛り込みきれない、もうひとつの世界を創造する」(김중혁의 ‘놀이하는 소년들’은 언어에 의존하지 않는다. 그들은 세상의 언어를 ‘비틀어’ 훼손하는 방식을 통해 ‘말’보다 더 ‘기나긴 대화’를 나눈다. 그들은 ‘비틀어진 언어’로 언어가 담아내지 못한 또다른 세계를 창조해낸다.)とおっしゃっています。その、言語が盛り込みきれない世界とは何か――読者は、さまざまにそれを言い当てる権利があります。今回の感想文でも、説得力をもって、そのキム・ジュンヒョクさんの小説世界を具体的に論じてくれたものに、高い評価が集まりました。
 また、偶然ですが、この短篇集に収められた「無方向バス」(무방향 버스)という短篇も、失踪した母親を扱った作品です。シン・ギョンスクさんの『母をお願い』と同様に、こちらの作品のお母さんも最後まで見つかりませんが、『母をお願い』と違って、この作品では、まぼろしのバスに乗って失踪したという出来事自体があまりにも呆気ないためか、母さんがいなくなっても、残された家族の生活は何も変わっていません。この作品の一番最後、ふたたび淡々と流れる日常の時間のなかで、主人公の「僕」が、会社帰りのバスでまぼろしの母親とかわす対話は、とても暖かなものです。シン・ギョンスクさんの『母をお願い』を一方で読みながら、その暖かさの意味を考えてみることも、複雑多難な現代社会に生きる私たちにとって、いろいろな点でとても大切なことかもしれません。
 多弁を弄しました。私たちは小説をどう読むべきかをつかさどる司祭ではありませんが、私たちなりのこれまでの経験を通じて、みなさんの感想文を公平に評価させて頂きました。今後もみなさんが、韓国文学のよき読者であられることを望みたいと思います。

2012年11月16日

第4回・韓国文学読書感想文コンテスト・審査委員長
渡辺直紀(武蔵大学人文学部教授)


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